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相模原市で見られる薬用植物

9.相模原市で見られる秋から初冬の薬用植物

10月・11月・12月頃の秋から初冬にかけて見られる薬用植物をご紹介いたします。

【ハッカ】シソ科 ハッカ属 日本ハッカ 別名:メグサ

写真①
ハッカ(写真①)は湿地や田んぼなどやや湿った所に生え、地下茎で増える日本原産の多年草です。
目が疲れたとき、葉をもんで目をこすり、目薬のかわりに用いたので目草ともいいます。
茎は四角く、葉は対生し、8~10月頃葉腋に淡紫色の花を数段輪生につけます。
花のつくり(写真②)をよく見ると、花弁はほぼ等しく4裂し、雄しべ4個が同じ長さというシソ科のなかの変わり者です。ハッカ属以外のシソ科の植物の花の形はホトケノザ・カキドオシ・アキノタムラソウ・タツナミソウなどのように4枚の花弁がふつう唇状(唇形花)に裂けています。
写真②
またハッカ属は全草に清涼感のある香りがあるのも特徴です。
同じハッカ属で近縁植物のヨーロッパ原産のセイヨウハッカ(ペパーミント)、マルバハッカ(アップルミント)、北米原産のミドリハッカ(スペアミント)があり、今回のいわゆるハッカは日本ハッカとして区別されています。
日本ハッカは辛みが強くてメントールの含有量が最も高く、合成メントールができるまでは日本産の天然メントールが世界中に輸出されていました。
現在でも北海道をはじめ、岡山・広島県などで栽培されています。
メントールは皮膚につけると冷却作用、麻酔作用を示し、局所の血流を増加させるため、筋肉痛などの外用薬として湿布や軟膏の原料、マッッサージオイルなどに利用されています。
ハッカの葉を含めた地上部を乾燥したものが生薬の薄荷はっかで局方に収載され、辛涼解表薬として漢方薬に配合されています。
風邪のときの咽痛・頭痛、また芳香発散性により気を巡らせて鬱を開く作用もあります。

【ツワブキ】キク科 ツワブキ属

写真③
ツワブキ(写真③)は海岸の岩の上や崖などに生える常緑の多年草です。
庭などにもよく植えられ、園芸品種も多いです。
葉に光沢があるフキの意味の艶蕗がなまったといわれます。
他の花が終わった頃に黄色の花が咲くので、石蕗と書いて初冬の季語になっています。
「咲くべきも 思はであるを 石蕗の花 蕪村」
花のつくりは、雌性の舌状花が1列に並び、中心部に両性の筒状花が多数集まる頭状花序です。
 キク科の花は高度に分化したつくりとされ、1個の花に見えるのは花序で、数個から数百個の小花が集まって頭状花序をつくっています。小花の花弁には舌状花と筒状花があります。
タンポポは全て舌状花で、アザミの仲間はすべて筒状花で、キクの仲間は舌状花と筒状花でつくられています。
深緑色の丸い葉は肉厚で光沢があり、抗菌作用のある成分を含んでいます。
打撲・おできなどのはれもの・切り傷に火にあぶった葉を患部にはる民間療法があります。
また葉柄はフキと同じように、キャラブキにして食べれます。

【センブリ】リンドウ科 センブリ属 別名:当薬

写真④
写真⑤
センブリ(写真④)は日本各地の日当たりのよい草地、山野に生える高さ10~20㎝の2年草です。しかし野生のセンブリに出会うことは非常に少なくなりました。
茎は四角く、葉は線形で対生ししばしば紫緑色を帯びます。
花は(写真⑤)白く、花弁に紫色のすじがあり、基部まで深く裂けて平開し離弁花のように見えます。同じ科のリンドウは5つに中裂しているので合弁花とわかります。
濃紫色の雄しべの葯の色がアクセントになっています。
花弁の根元には密線が2個づつあり、そのまわりに長い毛が生えています。
センブリはドクダミ・ゲンノショウコと並んで三大民間薬の一つで、古くから健胃薬として利用されてきました。非常に苦く、1000回振りだしてもまだ苦いことからこの名がつけられました。この苦みが舌先を刺激して反射的に胃の働きを活発にします。
根も含めた開花期の全草が生薬のセンブリで局方に収載されています。
同属のイヌセンブリやムラサキセンブリ(写真⑥)は苦みが弱く薬用には不適です。
写真⑥
健胃、胃や腸の痛みに、乾燥した全草を1日量0.3~1.5gとり煎じて服用します。
近年ではセンブリのエタノール抽出エキスが育毛成分として注目されています。
民間療法ではセンブリの煎液を頭ジラミを除去するための洗髪料や結膜炎の洗浄液としても利用しています。

【クチナシ】アカネ科 クチナシ属

写真⑦
写真⑧
写真⑨
野生のクチナシは日本の西南部から台湾および中国の暖地に分布していますが、庭木や公園樹としても広く栽培されています。 野生のものに比べて花がやや大きい常緑低木です。
初冬になると果実(写真⑦)が橙色に熟し、裂開しないので口無の名がつきました。
先端に萼片が残り、種子を多数含む肉質の液果です。
葉は厚く艶があり、葉脈が表面でへこみ葉の裏面に突出しています。
梅雨の時期、枝先に甘く濃厚な香りを放つ花(写真⑧)を1個ずつつけます。
花弁は5~7裂し、同じ数の雄しべが花弁の間から花の外に出ています。
通常の雄しべの形とは異なり、花糸は短く、細長い葯は垂れ下がっています。
葯から出す花粉はすでにこん棒状の自分自身の雌しべの花柱にたっぷりついています。
甘い香りに誘われた虫たちはこの花粉をつけて他の花に運んで、他家受粉により結実します。
写真⑨はヤエクチナシですが、雄しべが花弁に変化して(花弁は葉と同じ器官であり、雄しべは花弁と同じ器官)八重咲きになっているため果実はできません。
完熟した果実を乾燥したものが、生薬の山梔子(さんしし)で局方に収載されています。
のぼせやイライラ、不眠、鼻血、黄疸などの熱症状に清熱薬として漢方薬に配合されています。
また果実はサフランと同じカロチノイド色素のクロシンを含むため、古くから黄色の染料として知られ、無毒のためにきんとんや沢庵漬けなど食品を染めるのにも用いられています。
またジャスミンのような香りを放つ花は香料に用いられます。
 
                         会員 熊井啓子

8.相模原市で見られる夏から初秋の薬用植物

7月・8月・9月頃の夏から初秋にかけて見られる薬用植物をご紹介いたします。

【ヒガンバナ】ヒガンバナ科 ヒガンバナ属 別名:マンジュシャゲ

写真① ヒガンバナ
秋のお彼岸が近くなるとヒュルヒュルと花茎を伸ばし、先端に紅色の艶やかな花を咲かすヒガンバナ(写真①)は、その季節にぴったりの植物です。
もともとヒガンバナは日本に自生していたものではなく、弥生時代に稲作とともに中国揚子江から渡来した帰化植物と考えられています。日本に存在するヒガンバナは全て遺伝的に同じで、中国から伝わった1株の球根から日本各地に株分けの形で広まったと考えられます。
写真② シロバナヒガンバナ
そして日本のものはほとんど結実しないため、種子で増えることはなく球根で繁殖していきます。
現在揚子江沿岸にあるヒガンバナも日本のものと同じ種類で種子ができなく、ヒガンバナと稲作の関係が連想されます。
実際にヒガンバナは山中ではなく人里や田の畦や土手などに群生し、人と関わり合いのある場所にしか生息していません。
写真③ キツネノカミソリ
花のつくりを見ると、花茎の先端から5~7個の花が横を向いて開き、全体には輪生状に外向きに並びます。
6枚の花被片は強く反り返り、雄しべ6個と雌しべは花の外に長く突き出ています。
花が枯れると地下の鱗茎から深緑色で光沢があり、白い中脉をもつ線形の葉が沢山出てきます。
この葉は冬を越して翌年の春三月頃まであり、4月頃になると枯れてしまいます。
葉のある時期には花は咲かず、花期には葉がないためハミズハナミズとも呼ばれています。
鱗茎は有毒のアルカロイドであるリコリンを含むため、口にすると吐き気や下痢をおこし、ひどい場合には中枢神経の麻痺を起こして死に至ることもあります。
また有毒成分は水溶性で他に多量の澱粉を含むため、長時間水に晒して毒を除き救荒植物として利用されたこともかつてはありました。
鱗茎は石蒜(せきさんという名の生薬で利尿や去痰作用がありますが、有毒であるため民間療法として利用するのは危険です。
リコリンの他にスノードロップ(ヒガンバナ科)と同じガランタミンも含まれ、アルツハイマーの進行を遅らせる成分として注目されています。
写真②はシロバナヒガンバナで、紅いヒガンバナと黄色いショウキズイセンとの自然交雑種です。
白花と言っても株により白色に淡黄色又は淡紅色を帯び純白ではありません。
ヒガンバナより1ケ月早く咲く、同じヒガンバナ属にキツネノカミソリ(写真③)があります。
キツネノカミソリは半日陰の土手などでよく見かけ、よく結実する野生の植物です。
キツネノカミソリとヒガンバナは、お盆からお彼岸にかけての季節の移ろいを感じさせてくれる植物です。

【トウモロコシ】イネ科 トウモロコシ属

写真④ トウモロコシ
トウモロコシ(写真④)はアメリカインディアンによって古くから栽培されていた穀物で、日本へは1579年にポルトガル人により伝えられたと言われ、今では各地で栽培され私達にもお馴染みの植物です。
イネ科の1年草で、発芽から3ケ月で1本の茎に雄花(雄花序)と雌花(雌花序)を別々につけるいわゆる雌雄同株の植物です。
茎の先端にススキの穂のようになった雄花、雌花は葉の基部に苞に包まれています。
苞の外に垂れている長い毛は花柱で、1本1本が子房(果実)につながっています。
雄花は雌花より早く開花し、風によって花粉を飛ばし他の株の雌花へと運ぶ風媒花植物です。
受精すると花柱は赤くなり、子房も大きくなり食用のトウモロコシとなります。
薬用としては、トウモロコシ澱粉は薬の賦形剤(薬を取り扱いや服用に便利にするために加える成分)として製剤の原料とされます。
長い毛を乾燥したものが生薬名南蛮毛(なんばんもうで硝酸カリウムを含み利尿作用があり、民間薬としてむくみに使われます、
またトウモロコシは穀物として人間の食料や家畜の飼料となるほか、デンプンや油、バイオエタノールの原料として重要で、世界三大穀物(小麦・米・トウモロコシ)の一つです。
 

【オミナエシ・オトコエシ】オミナエシ科 オミナエシ属

写真⑤ オミナエシ
万葉集に山上憶良が「秋の野に咲きたる 花を指折り かき数ふれば 七種の花 萩の花 尾花 葛花 なでしこの花 女郎花また藤袴 朝顔の花」と歌っています。
オミナエシ(写真⑤)は秋の七草の一つで古くから日本人に親しまれ、盆花としても利用されています。
オミナエシの葉は対生で羽状に裂け、茎の上部はよく分枝し、黄色の花を散房状に多数つけます。
写真⑥ オトコエシ
しかし山野での自生は少なくなり、オトコエシ(写真⑥)のほうがふつうに見られます
オトコエシは白い花を散房状につけ、羽状に裂けた葉幅は広く、オミナエシよりも大型で全体に毛が多く荒々しい感じがあります。
写真⑦は7月のオトコエシで花茎がまだ分枝していません。
花冠は5裂し、雄しべは4個で花柱は1個あり、花後の果実はうちわのような翼になります。
写真⑦ オトコエシ
オミナエシもオトコエシも花瓶に生けておくと、醤油の腐ったような臭いが水に残ります。
この臭いはオミナエシ科の植物に広く存在するイソ吉草酸とボルネオールで、ネコやネズミはこの臭いに引きつけられます。
西洋では同じオミナエシ科のセイヨウカノコソウと毒を混ぜて殺鼠剤にしました。
オミナエシあるいはオトコエシの根を乾燥したものを生薬名敗醤はいしょうといい、腫れ物・解毒・利尿作用があり、虫垂炎等に使われる薏苡附子敗醤散(よくいぶしはいしょうさんに配合されています。

【ヒヨドリジョウゴ】ナス科 ナス属

写真⑧ ヒヨドリジョウゴ
夏のこの時期山野を歩いていると、反り返った白い花冠に黄色の雄しべを突き出しているヒヨドリジョウゴ(写真⑧)を見かけることがあります。
ヒヨドリジョウゴは他物にからみついて伸びるつる性の多年草です。
茎や葉は軟毛が生えていて、上部の葉は卵形で、下部の葉は3~5片に深い切れ込みのあるほこ形(写真⑨)をしているので花のない時期でも見分けがつきます。
写真⑨ ヒヨドリジョウゴ
葉と対生の位置の集散花序に白色の小さな花をつけます。
花冠は深く5裂し、裂片は反り返り、雄しべは5個で花糸は太くて短く、同じナス属のイヌホウズキと似ています。
初秋には果実になりやがて紅色に熟し(写真⑩)冬枯れの時期でも紅い実が残っていることがあります。
鵯が紅く熟した実を喜んで食べるのでヒヨドリジョウゴの名があり、漢名を白英は(くえいと言います。
写真⑩ ヒヨドリジョウゴ
福島地方ではツヅラゴの名でヒヨドリジョウゴの全草を外用薬として帯状疱疹の民間療法に用いてきました。
全草、特に果実にはステロイド系のアルカロイド配糖体のソラニンを含みます。
ソラニン類は有毒アルカロイドで頭痛、嘔吐、下痢、瞳孔散大などの中毒症状を起こすので民間での内服は避けたほうがよいです。
 
 
会員 熊井啓子

7.相模原市で見られる春から初夏の薬用植物

4月・5月・6月頃の春から初夏にかけて見られる薬用植物をご紹介いたします。

【モモ】バラ科 サクラ属

写真① サクラやモモ
早春に馥郁と香っていたウメも終わり、サクラやモモ(写真①②)が華やかに咲きだし春本番を迎えます。
特に芳香のあるモモの花は楊貴妃を思わせる華やかな美しさがあります。
中国では邪気を祓い不老長寿を与える植物として親しまれ、祝い事には桃の実をかたどった桃饅頭を食べる習慣があります。
日本へは中国から弥生時代に渡来し、すでに果物として食べられていたようです。
写真② サクラやモモ
モモは落葉樹で、先がやや尖った5枚の花弁と5枚の萼片をもち、サクラと違って花柄はほとんどありません。花と花の間には小さい新葉が見えます。
写真③は同じサクラ属のアンズで、モモより早くサクラと同じ時期に花が咲きます。花柄の短いモモやウメと間違えやすいのですが、アンズは赤い5枚の萼片が反り返っていることが大きな区別点になります。
花だけを観賞するハナモモは桃の節句に合わせて花屋の店頭に出されます。
写真③ アンズ
夏になると果実を結び、固い核の中には仁と呼ばれる種子が入っています。種子を生薬名「桃仁(とうにん」といい、もっぱら漢方に使い、瘀血を除き、血行を促進し、腸を潤し便通をなめらかにする薬能があります。
果樹のため盛んに品種改良が行われていますが、薬用には原種に近いものがよいようです。
アンズの種子は生薬名「杏仁(きょうにん」といい、漢方では鎮咳去痰、喘息発作を治め、便通をよくします。
桃仁も杏仁も青酸配糖体のアミグダリンを主成分とし、成分はほぼ同じですが、効能効果や使い方が全く異なります。
また新鮮なモモの葉は、水洗いし風呂に入れてあせもの治療に使われます。

【ホオズキ】ナス科 ホオズキ属

写真④ ホオズキ
初夏に咲くホオズキの花(写真④)は、盛夏の頃果実(写真⑤)を結びます。
夏の風物詩ほおずき市でもお馴染みで、果実から種をだして鳴らして遊んだ子供時代の思い出もおありでしょう。
ホオズキの花は杯形で先は浅く5裂して平開し、正面から見るとほぼ五角形です。
中心部は淡緑色で、雄しべは5個あり全体に白い毛が生えています。
写真⑤ ホオズキ
ナス科の中でもホオズキ属は花のあと萼が大きく袋状になって果実をすっぽり包むのが特徴です。
萼は始め緑色で熟すにしたがって赤橙色に変わります。
秋までほおっておくの写真⑥のように脉だけになってしまい、これも秋の風物詩となります。
ホオズキを漢字で「酸漿」のほか「鬼灯」とも書きます。これは中国語で小さな赤い提灯を意味します。
写真⑥ ホオズキ
日本の仏教習俗であるお盆では、萼に包まれたホオズキの果実を死者の霊を導く提灯に見立てて飾られます。
根は生薬名「酸奨根(さんしょうこん」といい、子宮収縮作用のあるヒストニンが含まれていて、江戸時代に堕胎剤として利用されていました。
また全草に微量のアルカロイドが含まれているので果実は食用にはなりませんが、食用のホオズキがヨーロッパでは古くから栽培されています。
日本でも秋田県や山形県で特産品として栽培されるようになりました。旬は秋で、袋は茶褐色に変わり果実は黄色くなって食べ頃を迎えます。
甘酸っぱい味でストロベリートマトという名前で出荷されています。

【ラベンダー】シソ科 ラベンダー属

写真⑦ イングリッシュラベンダー
ラベンダーは地中海沿岸を原産地とするシソ科の常緑樹で、日本では北海道富良野地方のラベンダー畑が有名です。
相模原市でも畑の斜面や庭先に植えてあるラベンダーを見かけることがあります。
最も代表的なイングリッシュラベンダー(写真⑦)の他に、ウサギの耳に似た大きな苞をもつラベンダーアボンビュー(写真⑧)という種類もあります。
写真⑧ ラベンダーアボンビュー
5~7月に開花しますが、高温多湿を嫌うので真夏は
花を早めに切り落としたほうがよいようです。
ラベンダーはハーブの中でも最も代表的なものの一つで、花だけでなく茎葉など全草に香原料として人気の高い芳香成分を含んでいます
ハーブティー、エッセンシャルオイルのほか、入浴剤、観賞用、ポプリ、ドライフラワーとしても利用されています。
またラベンダーの香りは神経を鎮静させる効果があるため、植物由来の芳香成分で健康や美容を増進するアロマテラピー(芳香療法)に使われています。
 嗅覚が脳の本能的な部分である旧皮質を刺激し、安心感・快感などに伴う情動が心身のバランスを促すと考えられています。
近年、代替医療としてアロマテラピーに関心を寄せる医療関係者も増えています。

【カキ】カキノキ科 カキノキ属

写真⑨ カキの花
初夏の新緑若葉の頃に咲く「カキの花」(写真)は、夏の季語にもなっています。
クリーム色の雌花の花冠は4裂し先は反り返り、雌しべ1個と退化した雄しべが8個あります。
雌花は雄花より大きく、大きな萼が目立ちます。
梅雨入り前になると雄花や受粉しない雌花がポトポトと音をたてて落ち始めます。
写真⑩ 柿
「柿花落」が入梅の頃の季語になっています。
「柿の花 土塀の上に こぼれけり 正岡子規」
やがて実を結び(写真)、秋には黄赤色に熟していきます。
甘柿と渋柿があり甘柿はそのまま食し、渋柿はアルコールや温水で渋を抜き、また干し柿に加工して食します。青味が残っている熟した果実の蒂(萼)を乾燥したものを生薬名「柿蔕してい」といいしゃっくりに用います。
写真⑪ マメガキ
柿蔕だけを煎じて飲む民間療法もありますが、柿蔕湯という漢方薬に配剤して使用しています
柿渋はかつて和傘などに使用する和紙に塗布して防水性を高めるために利用されたり、材木の防腐剤として
利用されたりしました。
写真は柿渋をとるために栽培されている12月の時のマメガキです。写真のように霜にあたると黒紫色になって渋みが抜けて甘みが増しおいしくなります。
柿の葉はビタミンCを多く含むのでお茶として、また柿の葉寿司などに用いられています。
「柿が赤くなると医者が青くなる」の諺があるようにビタミン豊富な柿を食べると健康になるということですが、食べ過ぎると便秘するので注意したほうがよいようです。
 
 
会員 熊井啓子
 
 

6.相模原市で見られる冬から早春の薬用植物

1月・2月・3月ごろの冬から早春にかけて見られる薬用植物をご紹介いたします。

【ナンテン】メギ科ナンテン属

ナンテンは庭木として植えられている常緑性低木です。
初夏に小さい白い花を多数つけ、晩秋から初冬にかけて小豆色の果実は赤く熟していきます。光沢のある葉は先が鋭く尖り、枝先に集まって3回奇数羽状複葉に分枝します。
ナンテンが「難を転ずる」に通ずることから縁起のよい木とされ、福寿草とセットで「災い転じて福となす」ともいわれています。
果実には鎮咳作用のあるアルカロイドのドメスチンを含み、咳止めに乾燥した実を1日に5~10g煎じ蜂蜜や水あめを加えて服用します。
お祝いごとで赤飯を他家へ配る時、赤飯の上にナンテンの葉をあしらう習慣があります。これはナンテンの葉に含まれるナンジニンが熱い赤飯の上にのせられてすぐふたをすると、殺菌作用のあるシアン化水素がごく微量ながら発生し、赤飯が腐るのを防止します。シアン化水素は猛毒ですが、微量なので危険性はなく、逆に食品の防腐に役立っています。
このような習慣は長い間の経験から、ナンテンの葉には食べ物を腐敗させないことを昔の人は知っていたのでしょう。
白い実のシロミナンテンもありますが、薬効には変わりありません。 

【スイセン】ヒガンバナ科スイセン属

暖地の海岸に大群落をなして野生化していますが、古い時代に中国から朝鮮半島を経て渡来したと言われています。
観賞用として栽培されいろいろな種類がありますが、最もポピュラーなのが写真の日本水仙です。
初春、雪の中でも春の訪れを告げるので「雪中花」の別名があります。
花の形態は花びらのように見える萼が外側に3枚、花びらは内側に3枚と中心に筒状の形をもちます。
種子はできなく、球根で増えていく多年草です。
一般的にヒガンバナ科植物には有毒成分ヒガンバナアルカロイドのリコリンなどを含み、全草とくに球根に多く、口にすると食中毒症状をおこします。
葉はニラと間違えて、球根はタマネギと間違えて食し嘔吐や下痢などの食中毒事故をおこした事例があります。
青森県の道の駅で販売者が山でスイセンをニラと間違えて採取し、購入した客が酢味噌和えにして食べ吐き気を訴えて病院の治療を受けた事故がありました。
雪の中で春の訪れを告げる香りのよいスイセンを松尾芭蕉は「其のにほひ 桃より白し 水仙花」「初雪や 水仙の葉の たはむまで」と謳っています。

【ヤブツバキ】ツバキ科ツバキ属

ツバキは日本原産の常緑樹で、古くから日本人に愛され品種改良が行われてきました。
野生のツバキは北海道を除く日本全土に分布し、ヤブツバキとユキツバキがあります。
ユキツバキは日本海側の低山帯で豪雪地帯だけに分布し、その他の地域はヤブツバキが分布しています。
ヤブツバキの花は花びらが5枚で、雄しべは多数あり、花糸は白色で下半分は合着して筒状になり、基部は花びらと合着しているので、散るときは萼と雌しべだけ残して、雄しべと花びらが丸ごと落ちます。
同じ属のサザンカは花糸が合着していないので、雄しべを残して花びらがバラバラに散ります。
ヤブツバキの果実は大きく直径4~5㎝もあり、果皮も厚く、熟すと3つに裂開して中から大きな種子が現れます。種子からしぼったツバキ油は、灯火用にした時代もありましたが、現在は頭髪用、食用、外用薬軟膏基材に利用されています。

【シデコブシ】モクレン科モクレン属

シデコブシは別名ヒメコブシともいい、花色は個体差があり純白から濃いピンクまである落葉小高木です。
本州中部の東海地方を中心とした限られた範囲に分布する日本の固有種です。
しかも開発などが影響して減少しつつある種であるため保全研究に取り組んでいる地域もあります。
葉が展開する前に芳香のある花をいっぱいにつける姿は、まさに春を告げる木です。
 花びらは9~30個くらいあり、花の形が四手に似たコブシのような花をつけるのでシデコブシといいます。
同じ属に9枚の花びらをもつコブシとタムシバとハクモクレンがあります。
いずれも、軟毛に包まれた花のつぼみを生薬名辛夷(しんい)と言い、鼻粘膜の収斂作用があるので鼻閉の漢方処方に配剤されます。
果実の写真は9月のコブシの集合果で、10月頃になると熟して割れ、赤い種子が長く伸びた糸状の柄の先にぶら下がります。
シデコブシは局方では辛夷に指定されていませんが、花のつぼみや果実の形はコブシやタムシバやハクモクレンと同じです。
 
 
 
会員 熊井啓子

5.相模原市で見られる秋から初冬の薬用植物

10月・11月・12月ごろの秋から初冬にかけて見られる薬用植物をご紹介いたします。

【クコ】ナス科 ナス属

赤いクコの実は、杏仁豆腐のトッピングやお粥やスープに入れた薬膳料理でお馴染みです。クコは中国原産で日本全国の日当たりのよい山野に自生している落葉低木です。
夏から秋にナスの花に似た淡紫色の1cm位の花をつけます。
晩秋から初冬にかけて楕円形で長い柄をつけ、果汁に富んで甘みのある紅熟した果実をつけます。
葉は2~3㎝の細長い楕円形で先端が尖り、両面とも無毛で柔らかく数枚ずつかたまってつきます。
茎は斜めに伸び、根元より多数枝分かれし、葉腋や枝先には刺があります。
クコを漢字で枸杞と書き、「枸」はカラタチを意味し、枝にでる刺に由来しています。また細い枝をヤナギ(杞)に例えて名づけられました。
薬用には葉および果実、根皮を用います。
生薬名は葉を枸杞葉、果実を枸杞子、根皮を地骨皮といい、ともに滋養強壮薬とします。
また柔らかい若葉は、おひたしやご飯に混ぜて枸杞飯に、葉は健康茶として利用します。
生薬地骨皮(じこっぴ)は根の木部を除いて根皮を乾燥したもので骨のような形をしていて、もっぱら漢方に使います。
骨中の熱をとる、体内の奥にこもった熱を冷す清熱薬として漢方処方に配剤されています。

【イヌサフラン】ユリ科 イヌサフラン属

イヌサフランはヨーロッパ中南部から北アフリカ原産の球根植物で、日本には明治時代に渡来しました。花が美しいので、コルチカムの名で園芸植物として広く植えられています。
土に植えなくても室内に放置した球根から秋になると花が咲くという変わった性質があります。
イヌサフランはアヤメ科のサフランとは全く別の植物です。
園芸植物として親しまれていますが、植物全体、特に球根や種子にアルカロイドのコルヒチンが含まれ有毒植物として扱われ注意が必要です。
コルヒチンの中毒症状は嘔吐、下痢、皮膚の知覚減退、呼吸困難を起こし、重症の場合は死亡することもあります。
球根の内部は白く、ジャガイモと間違えて食べた中毒事例があります。
葉は開花後に出て6月頃には枯れます。
下の写真は2月のイヌサフランの葉です。
この頃の葉の形が春先のギョウジャニンニクと似ているため中毒事故がよくおきます。
またコルヒチンには中枢性の知覚麻痺と末梢性血管麻痺作用があるため、医療用の痛風治療薬の
製造原料になっています。
 

【ワタ】アオイ科 ワタ属

秋が深まってくると紡錘形の果実が熟してはじけ、フワフワした白い毛が密生した綿そのものの形の実をつけます。
このコットンボールが切り花やドライフラワーなど観賞用として需要があり、人気があります。
本来ワタは有用な繊維作物で、世界各地で栽培されている多年性草本植物です。
日本での本格的な栽培は江戸時代に入ってからで、それ以前の庶民の衣服は麻やカラムシ、コウゾなどで作ったもので綿製品は高級品でした。
ワタの葉は互生し掌状に3~5裂し、長い柄をつけます。
花は夏から秋に咲きオクラに似た形で、淡黄色の花は朝咲いて夕刻にはしぼんでオレンジ色に変わる一日花です。
薬用には種子から生える白い綿毛を使います。
この綿毛は種子の表皮細胞の一部が糸状に変形したものです。
通常は少量含まれる油脂や蝋物質などを取り除き、さらに漂白して脱脂綿などの衛生材料とするほか、糸状に撚って(よって)ガーゼなどに加工して利用します。
また布団などの保温剤や衣服などの素材として私達の生活にはなくてはならないものとなっています。
繊維を収穫した残りの種子からは油脂が得られ、食用油(綿実油)のほか、マーガリンや石けんなどの原料とします。
日本で栽培されているワタはアジアメンで綿毛が短くて強度が強く、他にアメリカ起源のリクチメンやカリブ海起源のカイトウメンは綿毛が長いので紡績用に向いています。

【ジャノヒゲ】ユリ科 ジャノヒゲ属

晩秋から初冬にかけてジャノヒゲの細くざらついた葉をかき分けると、根元に青紫色の種子が現れます。
果実のように見えますが果皮をもたない種子そのものです。
青紫色の種皮をとると半透明の白く丸い胚乳が顔を出します。この胚乳がよく弾むので昔の子どもは投げつけて遊んでいたようです。
ジャノヒゲは日本全土、中国、朝鮮半島に分布する常緑の多年生草本植物です。
山野を歩いていると林床に普通に見られ、常緑のため庭園や公園の下草などにも栽培されています。
夏に、花茎の高さ7~15㎝の白色または淡紫色の花をつけます。下の写真はオオバジャノヒゲの花で、花茎の高さが14~26㎝です。
オオバジャノヒゲの葉巾はジャノヒゲより広くやや厚みがあり、花もよく目立ちます。
花をつけている姿は、葉の根元に花をつけるジャノヒゲとは違った雰囲気です。
 
ジャノヒゲの根を掘りあげると、ひげ根の一部が肥大した紡錘状の部分が所々についています。
これが生薬名麦門冬(ばくもんどう)で、もっぱら漢方薬に使われています。
麦門冬は咽喉および肺を潤し、咳を止め、痰を除く薬能があり、代表的な漢方処方は麦門冬湯です。
のどの乾燥感と、それが引き金で出る激しく突き上げる咳によく効く漢方薬です。
 
 
会員 熊井啓子

4.相模原市で見られる夏から初秋の薬用植物

7月・8月・9月ごろの夏から初秋にかけて見られる薬用植物をご紹介いたします。

【ハス】スイレン科 ハス科

近所の方からご自宅で育てた「大賀ハスの花が開きました」の知らせを受けて、夏の日の朝伺いました。8月4日の朝7時58分に撮った写真です。ハスの種子は寿命が長く、古代ハスとして有名な大賀ハスは、1951年に千葉県検見川の泥炭層から出土した種子を大賀一郎東大教授が発芽させたものです。今では古代ハスとして各地で栽培されています。
ハスの花は朝日を受けて開花し午後3時頃には閉じ、これを毎日繰り返して4日目には花弁も雄しべも全て落ちてしまいます。花托上面の点々が雌しべで、その後熟し果実になります。花托が蜂の巣に似ていることがハスの名前の由来です。
花托は大きく成長し熟し褐色になると中の果実が落下します。果実の皮を取り除いた種子が生薬名蓮肉(れんにく)で鎮静、滋養強壮作用として漢方処方に配剤されます。
肥大した地下茎は食用にされ、穴の開いた蓮根は「先が見通せる」に通じ縁起が良いとされ、お正月のおせち料理にも使われます。
穴が開いている理由は、泥の中で育つ蓮根は地上の茎とも
つながっていて穴が通気孔となり、根に外の空気を送り込んでいるのです。
丸いハスの葉は水に濡れることはありません。落ちた雨水はコロコロと丸くなりながら水滴になり、葉についた汚れや小さな虫などを絡めとりながら、葉から流れ落ちます。
この自浄効果をロータス効果といって、サトイモの葉も同じ現象があります。
このことから「ハスは泥より出でて泥に染まらず」の言い習わしがあります。

【キキョウ】キキョウ科 キキョウ属

花の色も姿も涼しげなキキョウは、秋を代表する花として昔から日本人に親しまれてきました。万葉集の山上憶良の歌「秋の七草」に登場する朝顔の花はキキョウではないかと言われています。
キキョウは日当たりのよい草地に生える多年草ですが、山野での自生は稀で今では絶滅危惧種となって
います。                   茎の先に数個の青紫色の鐘状の花をつけますが白花の園芸種もあります。
上の写真のキキョウの花は雌しべの花柱の先が5つに開いて、雄しべはすでに花粉を出して倒れている状態です。これは自家受粉を防ぐためのシステムで、雄しべ先熟といいます。
10月にキキョウの根を掘ると白いゴボウのような感触の根がでてきます。
皮を除いて日干しにしたものが生薬名桔梗(ききょう)です。去淡作用や排膿作用があり、のどが腫れて痛む時に使う漢方処方などに配剤されています。

【ゲンノショウコ】フウロソウ科 フウロソウ属

ゲンノショウコは三大民間薬としてドクダミ、センブリと並んで古くから親しまれています。飲むとすぐに薬効があるということで「現の証拠」と書きます。
山野にふつうに見られる多年草です。
花は東日本では白い花、西日本では紅紫色の花が多いです。5枚の花弁には5本の脈が通り、萼も5枚あります。
葉は掌状に3~5深裂し、若葉のときは毒草のウマノアシガタの葉と似ているので注意が必要です。
10月頃になるとくちばし状に伸びた果実をつくり、その下に種子があり、熟すと5列し種子を1個ずつ巻き上げます。この形がみこしの屋根に似ているのでミコシグサとも言います。
薬用部分は全草で、花期に地上部の茎葉を採り水洗いし陰干します。1日量20gを400mlの水で半量になるまで煎じ3回に服用します。
大腸炎などによる下痢止め、健胃整腸薬に用いられます。
 

【ハトムギ】イネ科 ジュズダマ属

ハトムギは東南アジア原産の1年草で、日本には古くから渡来し各地で主に薬用として栽培されています。
果実を炒ったものがハトムギ茶で、果皮を除いたものが生薬の薏苡仁(よくいにん)です。
薏苡仁は消炎・利尿・鎮痛作用があり漢方薬に配剤されます。いぼとりと美肌には、薏苡仁10~30gを
1日量として煎じお茶がわりに飲みます。
よく似た同じ属のジュズダマ(下の写真)は多年草で、ハトムギの母種で水辺に多く群生しています。
 
ハトムギの果実は垂れ下がりますが、ジュズダマの果実は直立しています。
ジュズダマをよく見ると、果実を包んでいる壺形の苞鞘の先に雄花が見られ、雌花は苞鞘の中にあり柱頭だけを出して受粉しています。
果実は苞鞘の中で熟し黒褐色になり硬くなります。
ハトムギの苞鞘はジュズダマより軟らかく、指で押しただけで中の果実が取り出せます。
 
 
 
 
会員 熊井啓子

3.相模原市で見られる春から初夏の薬用植物

相模原市の中でも緑区の旧津久井郡は自然に恵まれ、四季の化に応じた植物に沢山出会うことができます。
4月・5月・6月頃の春から初夏にかけて見られる薬用植物をご紹介いたします。

【アケビ】アケビ科 アケビ属

アケビは北海道を除く全国各地の山野にふつうに生える落葉つる性の植物です。
4月頃葉の間から垂れ下がるように淡紫色の花が開きます。
アケビは雌雄同株で、バナナ様で先端が粘る雌花が1~3本、雄花が数本つきます。
いずれも花弁のように見えるのは3枚のがく片です。
葉は5枚の小葉からなり、よく似た植物に小葉が3枚のミツバアケビがあります。
右の写真は10月頃のミツバアケビの果実です。
アケビもミツバアケビも熟すと口が開くところから開け実で、名前の由来になっています。
ちなみに常緑のムベ属のムベの果実は裂開しません。
薬用にはアケビとミツバアケビのつる性の茎を使い生薬名を木通(もくつう)と言います。
強い利尿作用があるので膀胱炎などの漢方薬に配剤されたり、また血をよく巡らすので冷え性の漢方薬にも配剤されます。

【ボタン】ボタン科 ボタン属

ボタンは中国原産の落葉性低木で、日本に渡来したのは奈良・平安時代で、遣唐使、留学生、僧侶などが中国から持ち帰ったと言われています。
江戸時代に品種改良が重ねられ今日に至っています。
ボタンの根は横に広がって鉢植えに適さないため、観賞用のボタンの多くはシャクヤクの根を台木にして接ぎ木することによって栽培しやすくなり広く普及しました。
幹は直立して分枝し枝は太く、葉は光沢がなく2回羽状複葉で小葉は3~5に中裂しています。
4~5月頃枝先に大きな花を一つ咲かせ、色は品種により白・赤・紫があります。
薬用には根の硬い木部を芯抜きした根皮を使い、生薬名を牡丹皮(ぼたんぴ)と言います。
消炎性駆瘀血(おけつ・血液の停滞のこと)作用、排膿作用があり婦人薬などの漢方処方に配合されます。

【シラン】ラン科 シラン属

日当たりのよい湿った斜面に生える多年草で、観賞用として栽培されています。
しかし野生種はまれで、神奈川レッド・データブックでは準絶滅危惧種に指定しています。
4~5月頃大型の紅紫色の花を咲かせ明るい初夏に似合う植物です。
花はラン科の形態に多い3枚のがく片と2枚の花弁とひだの多い1枚の唇弁から構成されています。葉は幅広の長楕円形で葉質は薄く硬く多くの葉脈が走っています。
地下には偏球形の球茎がついていて、前年の球茎が横に連なっています。
この球茎を蒸したり、湯通しした後に乾燥させて白芨(びゃっきゅう)として薬用に使います。
成分は粘液質の澱粉が含まれ、止血作用や抗潰瘍作用、抗菌作用が報告されています。
この粘液は陶磁器の絵つけや七宝焼きなどの工業用の糊としても用いられています。

【ドクダミ】ドクダミ科 ドクダミ属

さわやかな初夏が終わって蒸し暑い梅雨の時期に入るとドクダミの花が咲き出します。
ドクダミは半日陰地のいたる所で見られる多年草で、地下茎を長く分枝して繁殖します。
葉は互生し心形の先は短く尖り、分枝した茎の上部に白い花をつけます。
4枚の白い花弁のように見えるのは実は葉に近い性質の総苞で、真の花は中央に棒のように伸びた部分で、花弁もがく片もなく雄しべ雌しべだけをもった小さな花を密生してつけます。
黄色に見えるのは雄しべの先端の葯です。
密生した花の間から総苞が発達して八重咲きになったのがヤエドクダミで、最近観賞用として栽培されています。
また夏至から11日目にあたる半夏生の頃、花が開き葉が白くなるドクダミ科のハンゲショウが水辺や湿地で見られます。葉に近い性質の白い総苞や、小さい花が密生しているドクダミと形態的に似ていますので、ハンゲショウがドクダミ科というのも肯けます。
ドクダミは3大民間薬(他にゲンノショウコ・センブリ)の一つで古くから親しまれています。
花期の地上部、全草を刈り取り水洗いして日干し、乾燥して煎じます。
生薬名十薬(ジュウヤク)は緩下、利尿、高血圧予防として使われています。
特有な臭いのある生のドクダミは、葉を火にあぶって化膿性のはれものに塗布します。
また、かゆみや湿疹に使われる漢方薬にも十薬として配剤されています。
 
 
会員 熊井啓子

2.冬から早春の薬用植物

相模原市の中でも緑区の旧津久井郡は自然に恵まれ、四季の化に応じた植物に沢山出会うことができます。
1月・2月・3月頃の冬から早春にかけて見られる薬用植物をご紹介いたします。

「スノードロップ」ヒガンバナ科 ガランサス属 和名:マツユキソウ

大寒の1月頃に枯れ葉の間から新葉と一緒にスノードロップの花が頭をもちあげます。
他の植物達が冬の寒さに耐えているこの時期に花を咲かせる数少ない植物です。
もともとヨーロッパに自生している球根植物で昭和初期に渡来し、観賞用として庭先でも栽培されています。
3枚の長い外花被と3枚の短い内花被があり内花被には緑色の斑点があります。
春の訪れを告げるスノードロップにはこんな伝説があります。
エデンを追われたアダムとイヴをある天使が励ました際、降っていた雪を天使がスノードロップに変えました・・・
そんなスノードロップもガランタミン製造原料として現在注目されています。
ガランタミンは球根に含まれるアルカロイドで重症筋無力症の改善や、最近はアルツハイマーの進行を遅らせるなどの効果が認められています。
スノードロップによく似た植物に3月から4月頃に咲くスノーフレイク(ヒガンバナ科・スノーフレイク属 ・和名オオマツユキソウ・下の写真)があります。
スノーフレイクにもガランタミンが含まれ、ガランタミン製造原料としてより多く使われています。
しかしヒガンバナ科の植物の球根には催吐作用のある有毒アルカロイドのリコリンも含むため、口に入れる事は禁忌です。

【サンシュユ科】ミズキ科 ミズキ属 別名:ハルコガネバナ

早春、硬く閉じていた冬芽から黄色いサンシュユの花が開き始めます。葉が展開する前に咲くこの花が満開になると、早春にひときわ光輝くので別名ハルコガネバナとも呼ばれます。
サンシュユは中国・朝鮮半島原産で、日本には江戸時代に薬用植物として渡来しました。
現在では全国の公園や街路樹として、また切り花用に花木として植えられています。枝先に4枚の花弁をもつ小さな花の集まりが固まってつきます。
秋には長楕円形の赤い果実を結び、口に入れると渋みと酸味があります。赤い実をたくさんつけた様子から秋サンゴとも呼ばれます。
この果実の種を除いて果肉を乾燥したものが生薬の山茱萸(さんしゅゆ)でもっぱら漢方薬に使われます。この生薬には滋養強壮作用があり、高齢者に多く使われる漢方薬の八味地黄丸(はちみじおうがん)に配剤されています。また山茱萸酒として疲労回復・強壮に使われます。

【ウメ】 バラ科 サクラ属

早春に咲くウメは、芳香といい花の形といい最も日本的な趣をもった植物でしょう。
ところがウメはもともと日本にあったものではなく、奈良時代に中国から入ってきました。
がく片5枚、花弁5枚、1本の雌しべに多数の雄しべもち、サクラと違って花柄がほとんどないので枝に着くように咲き、樹皮もゴツゴツして不揃いな割れ目が入ります。
ちなみに花弁の先が丸いのがウメで、サクラは割れていて、モモは尖っています。
 6月頃果実は熟し梅干しや梅酒として古くから利用され、疲労回復によい酸味成分のクエン酸・コハク酸・リンゴ酸を含む日本独特の健康食品として親しまれています。
また未熟果実をわら灰の灰汁に一晩浸し、煤煙で薫製にした鳥梅(うばい)は駆虫作用があり、漢方薬の鳥梅丸に配剤されています。
黒く酸味の強い鳥梅はウメという樹木が日本に入る以前に、中国から薬用として入ってきました。
なお鳥梅はベニバナ染めの媒染剤にも使われています。
 

【フクジュソウ】 キンポウゲ科 フクジュソウ属 別名:元日草

早春日本各地の落葉樹林下の明るい所で野生のフクジュソウが咲きだします。
お正月用に盆栽として出回るのは促成栽培されたフクジュソウです。
元日草とも呼ばれるフクジュソウをお正月に飾るのは病魔よけだけでなく、黄金色の花を黄金に見立てた縁起物のようです。
黄金色の花弁を使って日光を花の中心に集め、その熱で虫を誘引しています。
そのため日光が当たると花が開き、陰ると閉じます。
フクジュソウは全草有毒で、特に、根や根茎に強心配糖体シマリンを多く含み誤食すると心臓マヒをおこして死亡します。
1月~2月の花芽が出始めた頃のフクジュソウはフキノトウと間違えて事故をおこすことがあるので注意が必要です。
 
  
 
  
会員 熊井啓子
 

1.秋の薬用植物

相模原市の中でも緑区の旧津久井郡は自然に恵まれ、四季の変化に応じた植物に沢山出会うことができます。
今回は9月・10月・11月頃に見られる薬用として使われる植物を、フィールドを歩いている感覚でその形態的特徴と薬効をご紹介いたします。

【オケラ】キク科 オケラ属

低山を登って行くと暗い杉林を抜けてやや明るい陽当たりのよい場所にオケラが何株か自生していました。県内ではふつうに見られる植物で、万葉集では「うけら(宇家良)」と呼ばれていてそれが訛って「オケラ」になったと言われています。
葉は互生で細長い披針形で柄があり、さわると硬く、葉の縁は鋭い鋸歯があります。
花は白色の菅状花だけの集まりで(ヒマワリは舌状花と菅状花・タンポポは舌状花だけ)、外側の総苞は魚の骨のような形をしています。
若芽は食べて美味しい野草の一つで「山で美味いはオケラにトトキ、里で美味いはウリ、ナスビ」と謡われています。
薬用にするのは根茎で強い香りがし、秋から冬にかけて掘り出して乾燥した生薬は白朮(ビャクジュツ)といい重要な漢方生薬です。
健胃作用と胃内停水や関節に停滞している湿気を除去する作用があります。
また白朮は屠蘇散の主役で、正月元旦に無病息災を祈って一家で飲む習慣が今も残っています。

【アオツヅラフジ】ツヅラフジ科 アオツヅラフジ属 別名カミエビ

  杉の木につる性植物のオオツヅラフジがからみついていました。その近くにアオツヅラフジが白い粉をふいた青紫色の果実をつけていました。山中でこの色に出会うと赤い果実とは違った感動を覚えます。アオツヅラフジの葉はツヅラフジと比べて葉幅が狭く先が尖り、短毛が密生しているため、さわるとフワっとした軟らかさを感じます。
7~8月頃小さな黄白色の花(雌雄異株)をつけ、一つの雌花から6個の果実(雌しべは1個で子房が6個)ができます。
薬用に使うのは根茎で生薬名を木防已(もくぼうい)と言います。
しかし市場には出ないで実際にはオオツヅラフジの防已(ぼうい)を漢方処方では使い、腰や膝の湿を除き痛みをとります。

【カラスウリ】ウリ科 カラスウリ属

赤く色づいたカラスウリの果実は秋の山野でよく目立ちます。葉はハート型で浅く3~5裂し粗毛が密生し、さわるとザラザラして光沢はありません。
花は8~9月頃、日が暮れてから細く裂けている花弁の先がレース状に広がり、夜明け前にはしぼみます。
夜の間スズメガがこの妖艶な姿に引き寄せられ雄花と雌花を飛び回って花粉媒介を引き受けます。民間薬として赤い果実の果汁、果肉を患部に塗ってしもやけに使ったり、子ども達が運動会で足に塗ると早く走れるという話しも聞きます。

【ナツメ】クロウメモドキ科 ナツメ属

ナツメは中国から渡来し、現在全国の庭や植物園で植栽されている高さ10mほどの落葉小高木です。枝には托葉から変化した刺があり、葉は互生し3本の葉脈が目立ち、さわるとつやつやしています。6~7月頃葉腋に黄緑色の小さな花を数個ずつつけます。10~11月頃果実をむすび熟すと暗紅色になり、甘くおいしいので生食したり、干して砂糖漬けにします。
ナツメの葉を1~2分間かんだ後に甘い食べ物を食べても甘みをあまり感じません。これはナツメの葉に含まれるジシフィンという物質が、味蕾の甘味受容体を選択的に阻害しているためです。
薬用に使うのは果実で、よく熟したものを日干しにしまた蒸してから再び日干しにします。
生薬を大棗(タイソウ)といい、重要な漢方生薬として多用されます。健胃作用や精神安定作用があり、また生の生姜と大棗の組み合わせは胃を暖め消化力を高めるので多くの漢方処方に配剤されています。

【ヌルデ】ウルシ科 ウルシ属

ヌルデは低山から山間部にかけてふつうに見られる落葉小高木で、秋には美しく紅葉します。
葉は互生で3~6の小葉からなる奇数羽状複葉で、葉軸に翼があるのが特徴です。
花は8~9月頃白色の小さな花を円錐状に多数つけます。
果実は10~11月頃黄赤色に熟し、熟すと酸味のまじった塩辛い味がする白い物質リンゴ酸カルシウムを分泌します。
ヌルデの葉にはヌルデノシロアブラムシが寄生して大きな虫こぶをつくることがあります。この虫こぶを割ってみると中には黒紫色のアブラムシが生活しています。写真(9月27日撮影)の虫こぶはすでにアブラムシが飛び出した後で茶色のカスが多数出てきました。
この虫こぶを乾燥した生薬名が五倍子(ごばいし)で、タンニンが多量に含まれお歯黒や白髪染めの色素原料として利用されていました。
ウルシの仲間でも毒性が最も強いのはウルシで次いでツタウルシです。ヌルデは毒性がなくかぶれることはめったにありません。
 
 
                          
会員 熊井啓子
                                                                                   
 
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