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冬から初春の薬用植物

1月・2月・3月頃の冬から早春にかけて見られる薬用植物をご紹介いたします。

【カタクリ】ユリ科 カタクリ属

写真①
セツブンソウ、ニリンソウ、キクザキイチゲ、ジロボウエンゴサクなどと並んで、カタクリは早春期に開花して、初夏までには地上部から姿を消すいわゆるスプリング・エフェメラルの一つです。
スプリング・エフェメラルとは「春のはかない命」という意味で「春の妖精」とも呼ばれます。
初夏には草や茎が溶けるように消失し、その分地下部に栄養を蓄えます。
写真②
カタクリの鱗茎(草花で球根というのも多くは鱗茎)は長さ5~6㎝で毎年更新を重ね、旧鱗茎の下に新鱗茎が作られます。
そのため、開花株では鱗茎は土中深くもぐっています。
開花するまでにはおよそ7~8年かかり、それまでは1枚の葉で過ごします。
写真は「さがみこカタクリの郷」で3月30日に撮ったものです。
写真③
開花期の葉はふつう2枚で、長楕円形で質はやや厚くやわらかく、淡緑色でふつう紫褐色の斑文があります。(地域によってはないものもあります。)
花茎の先端に1個の花を下向きにつけます。
花被片は6枚で、太陽があたると上方へ強く反り返ります。
雄しべは長短3個づつあり葯は暗紫色で、雌しべの柱頭は浅く3裂しています。
写真は花柱をつけたままの花後の果実です。
果実は3室に分かれた蒴果で、種子には蟻が好むエライオソーム(さなぎの臭いに似ている)がついていて、裂開してこぼれた種子を蟻が拾うことによって生育地を広げています。
発芽1年目のカタクリは細い糸状の葉を、2年目から7~8年位までは卵状楕円形の1枚の葉だけで過ごし、鱗茎が大きくなり、2枚目の葉が出てから
花をつけます。
地下の鱗茎には良質の澱粉が含まれていて、これから採った澱粉が真正の片栗粉です。
現在の市販品はジャガイモやサツマイモから採れた澱粉を片栗粉として使われています。
カタクリから採れた澱粉には薬効があり、かつてはすり傷・おでき・湿疹に患部にふりかけたり、風邪・下痢などの病後の滋養にくず湯として服用されていました。
 
もののふの八十娘子らが汲みまがふ 寺井の上の堅香子の花」-万葉集 大伴家持
堅香子はカタカゴと読み、カタクリの別名です。
 

【アオキ】ミズキ科 アオキ属

写真④
アオキは関東以西の本州、四国、九州、沖縄及び朝鮮半島に分布する雌雄異株の常緑の低木です。
冬枯れの林内で赤く熟した実をつけたアオキ(写真)に出会うことがよくあります。
1年中葉も枝も青いことからアオキ(青木)の名があります。
日本固有種とされていたアオキが、「日本誌」の著者であるドイツ人医師ケンペルによって、鎖国の時代にヨーロッパに紹介されたというエピソードがあります。
「元禄3年(1690年)に来日したケンペルが常緑樹に赤い実のついた植物に非常に感動した。日本にしかないアオキは、ヨーロッパ人にとっては大変珍しかったので、ヨーロッパでも栽培されたが、あの赤い実はならなかった。
ヨーロッパにあるのは雌株のみ。
明治元年(1860年)にイギリスのロバート・フォーチュンは雄株を探しに来日した。
このフォーチュンの努力により、ケンペルより百数十年後にヨーロッパに初めてアオキが赤い実を結んだのである。」
写真⑤
4月頃になると4枚の花弁をもつあずき色の美しい小さい花を咲かせます。
写真⑤は雄花で、雄しべは4個あり葯は淡黄色で、中央には退化した雌しべも見られます。
果実は核果で、12月~5月頃に赤く熟します。表面は光沢があり、中に核が1個入っています。
果実が枝についている期間が長く、しばしば花と果実が一緒に見られます。
葉は対生で、枝の上部に集まってつきます。ふちには粗い鋸歯があり、質は厚く、両面とも無毛で表面は深緑色で光沢があります。
生葉はあぶったり乾燥すると酸化されて黒変します。
やけど・はれもの・凍傷に生の葉をあぶって患部に貼る民間療法があります。
また民間薬の陀羅尼助には、薬に色つやを出すためにアオキの葉のエキスが入っています。

【ヨモギ】キク科 ヨモギ属

写真⑥
早春のヨモギ(写真)は、その綿毛に覆われた若葉を摘んで草餅にするのでモチグサとしてもよく知られています。
5月頃に葉をとり、日干しにしてからからに乾燥したものを臼に入れて、粉末状につき砕き、これをふるいにかけて毛だけを集めたものが艾もぐさです。
灸に使われる艾は、よく燃える意味から善燃草よもぎという説もあります。
ヨモギは山野にふつうに生える高さ0.5~1.2㍍の多年草です。
写真⑦
他に大型で山地の高い所に生え、山道でよく見られるヨモギに似たオオヨモギがあります。
写真は7月のまだつぼみのオオヨモギの花柄です。
ヨモギ属はキク科には珍しい風媒花で、花粉が散りやすいように下向きに咲きます。
日本産の艾は主としてオオヨモギからとっており、滋賀県伊吹山の名産になっています。
ヨモギまたはオオヨモギの葉を乾燥したものを生薬「艾葉がいよう」といい漢方薬に配合されています。
 
艾葉には止血作用・止痛作用があり、漢方薬の「芎帰膠艾湯きゅうききょうがいとう」に配合され、子宮出血・血尿・肛門出血・腰脚冷え・あるいは下腹痛に効果があります。
また日本の代表的な民間薬としても愛用されています。
生の葉を傷口につけると止血効果があり、乾燥葉は身体が冷えて膀胱炎や腹痛・下痢をした場合に10gほど煎じて内服します。
また、入浴剤としても優れており、血行がよくなり、肩こり・腰痛・神経痛などの痛みを和らげ、冷え性にもよく、さらにあせも・かぶれなどの治療効果もあります。

【ハクモクレン】モクレン科 モクレン属

写真⑧
野山がまだ冬の装いに包まれている早春の頃、葉が出る前に純白のハクモクレンの花が一斉に咲き出します。香りのよい白色大型の花(写真)が枝先に開きます。
花被片は9枚で、花弁のように見える外側の萼片が3枚、内側に花弁が6枚あります。
同じ時期に咲く紅紫色のモクレン(別名シモクレン)の外側の萼片3枚は小さいので、花弁との区別がつきます。
写真⑨
ハクモクレンの花をよく見ると、多数の扁平な棒状の雄しべと黄緑色の雌しべが花床にらせん状についています(写真)。
モクレン科(コブシ、タムシバ、シデコブシ、モクレン、ハクモクレン等)の花は雄しべや雌しべ、花被片などがらせん状につくのが特徴です。
写真⑩
写真は同族のコブシの果実で、ハクモクレンの果実も秋になるとこぶし状の長楕円形の袋果をつけます。
成熟すると袋果が割れて、赤い種子が糸状の胚珠の柄の先にぶら下がり、すぐには落ちません。
芳香成分が含まれている花のつぼみを乾燥したものが生薬の「辛夷しんい」です。
辛夷は鼻粘膜の収斂作用、抗菌作用、抗炎症作用があります。
写真⑪
写真⑪はシデコブシの花のつぼみです。  
局方では「辛夷」をタムシバ、コブシ、ハクモクレンのつぼみを指定しています。
辛夷が配合されている漢方薬の「葛根湯加川芎辛夷かっこんとうかせんきゅうしんい」は鼻づまり、蓄膿症、慢性鼻炎などに使われています。
  
 
         会員 熊井啓子
 
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